Notelets

誰かのために何かを作る日々の断章。試論。仮説。フィールドノーツ。

とある安い万年筆がサイコーであること

なぜかわからないんだけれども、ある安い万年筆が最高に調子いい。

パイロットのプレラ、正式には「プレラ 色彩逢い iro-ai」。いろあい、と読むのか。

 

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3,000円台の、求めやすいモノ。「なくしても惜しくない、持ち歩き用にでも」と何気なく買ったものだが、これが。堂々と、他の高級筆記具(当社比)を抑えて、自分の筆記具のド真ん中にいる。鎮座ましましている、と言いたくなる。

ツバメノートの紙とのコンビネーションが最高だ。引っかかるわけでもなく、ツルツル or ヌルヌルと滑りすぎるわけでもなく、紙をなでているだけでもない。しっとりと紙に食いつく感じ。微かな紙の凹凸を感じながら、引きたいところに線が引ける。止めたい時は止まる。

これはもう、「体感してみて」としか言いようがない。

が、がんばって表現してみれば、例えばいい革のバッグの手触りとか、すっかり馴染んだデニムの安心感とか、ちょうど良く油が回った機械を動かす感触というか……。大げさに言えば、そういう類いの、本能的気持ちよさがある。ただ疲れずに書けるとか、スムーズに書けるとか、滑らかだとか、かすれないとか、それだけではない。

擬音で表現してみれば……、例えば、

昔の油性ボールペンが、ゴリゴリ、
今の海外の太めの油性ボールペンが、ヌルヌル、
イマドキのゲルボールペンが、サラサラ1、
イマドキの日本の油性ボールペンも、サラサラ2
細いボールペンならどんなインクでも、カリカリ、
LAMYのSafariなどの普通の格安万年筆も、サラサラ(たまにザラっカリっ)、

そしてプレラ+ツバメノートが、ヌルサラっ、というところ。……わかんないすね :-)

違う言い方をすれば、ペン先から伝わってくる感触の「湿度」と表現できるかもしれない。本当に乾いた感じが、2Hとか硬めの鉛筆。一番ウェットなのが、太めの万年筆やエナージェルの、ドバドバ。中間はいろいろあると思うが、そのあんばいがちょうどいい。始めに挙げたように、しっとり。

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ただ、他の紙だとどうなのかとか、ペン自体の個体差とか、人それぞれの手癖みたいなものがあるだろうから、きっと誰にでもそうだというわけでもないのだろうと思う。たまたま、今、この使っているプレラがいい。軸の太さとかバランスだとかも、好みの世界だろう。万年筆の通の人たちに言わせれば、わかってねえな、ということなのかもしれないんだけど、それでも今の自分に一番気持ちいいことは疑いがない。

硬めのペン先が好み、ということなのかもしれない。筆圧が強めなのかもしれない。確か、池波正太郎もそんなようなことを言っていた。書き始めは硬いもので楷書を書き、執筆が乗ってくると柔らかいもので走る、というような(合羽橋池波正太郎記念館にそんなことが書いてあったように記憶している)。

ペン先はM。より細いFのペン先のバージョンも持っていて、こちらも悪くない。が、細いだけに、自分の手癖では少し紙に引っかかったりもしてしまう。コンバーターも付いているが、その商品コンセプトを無視して、カートリッジインクを使っている。バリバリ使うものはパっと補充できるほうがいい。

細かいことを言えば、ツバメノートを使っていても、いつも同じ書き味、ということでもないように思う。ある時、ページの下の方に行くと、書き味が良くなることに気付いた。なんでかわからないんだが、いいあんばいで書ける。で、フと思い至ったのは、上の方を書いているうちに、自分の手で、下の方紙をちょうどいい状態に慣らしているのでは、ということに思い至った。我ながら細かい。

で、それ以来、新しい見開きを開いたら、毎回、少し紙面を手でこするような儀式をするようになった。そうすると、いつも最上の状態で書ける。

ちなみに、ツバメノートは、小さいものは普通の上質紙。フールス紙ではない。ので、書き味はまったく違う。時々A7くらいの小さなツバメノートについて、その紙がどうだとかって言う人がいるが……、少なくとも、自分とは違うところを見ているようだ。どうせツバメノートを使うなら、A5以上のものがいいのではないか。

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通常、万年筆と言えば、いわゆる「金ペン」が「万年筆にこだわる人の万年筆」なのだろう。14金とかなんとか、ニブ、つまりペン先のパーツが柔らかい金属でできている。そのおかげで書き味が良くなる。一方、スチールと言ったりすると思うのだけれど、プレラも含めて、「非金ペン」は一段下に認識されているの(のだと思う)。

自分も、マニアではないのだけれども、金ペンを何本か持っている。分不相応に、少し古いモンブランもあったりする。もちろんそれらもいいし、またしばらく経ったら違うことを言っているかもしれない。しかし、ここ数年の自分にとっては、プレラがサイコーだ。

ただ、それほど多くのペンを使ったことがあるわけではない。試し書きなら少しはしたけれども、結局、万年筆は少し長い時間が経ってからでないと、その真価はわからない、と思っている。そういう意味では、何十本も使い込んだわけではない。名器と言われているらしいペリカンのスーベレーンは使ったことがない。あるいは、5万円以上するような高級品も。

ただ、ツバメノートではない、キャンパスノートとかマルマンのベーシックスパイラルの場合は、金ペンの方がいい。RHODIAやクレールフォンテーヌならば、金ペンもスチールペンも両方なかなか。