Notelets

誰かのために何かを作る日々の断章。試論。仮説。フィールドノーツ。

創造性とかクリエイティビティとかなんとかの読書リスト

このところ、創造性というテーマに触れていた。

仕事をしていて自分の企画がつまらないと感じたり、「合理的だがあたりまえ」のことしか出てこないことがきっかけになっていたようだ。コロナで活動の幅が狭くなったことも遠因なのかもしれない。

ただ、よくわからないテーマでもある。つかみ所がないように感じる。何が創造的であると認められるのか。大きな発見だけなのか。科学的な発見と、お笑い芸人の方々が大喜利で笑わせること(すごいことだと思う)と同列に扱っていいのか。考えを突き詰めた哲学と新しい事業の創出は同じなのか。

ドラッカーもそんなことを言っていたらしい。


  私は創造的だと言われますが──私にはその意味がわかりません──。


心理学者のM・チクセントミハイが創造性についてインタビューさせて欲しいと依頼したとき、そんな言葉を添えて断ってきた。そう後述のチクセントミハイの本にある。つまりドラッカーはよくわからない創造性というテーマには関わることを意図的にせず、代わりに生産性にこだわっていた。

とは言え、いろいろ読んでみて、原則的なことだったり、参考になりそうなことはある。私的な結論めいたことをまとめれば、以下のようになる。

①やれ:集中せよ、フローせよ、課題に深く関わり続けろ、こつこつと試行錯誤せよ
②視点を変えろ:時には違う角度から見て取り組んでみよ
③失敗することを許容せよ:ダメなアイデアも含めたくさん出せ
④動け:創造的な環境に、また創造的であることが受け入れられる環境に身を置け
⑤なんでもきっかけになり得る:身体や他者、文化……も創造性の源と知れ


▼M・チクセントミハイ『クリエイティビティ』 権威の集大成

そのチクセントミハイの本。そのままずばりのド直球タイトル。それだけの自負があるのだろうと思う。

    ⇒『クリエイティヴィティ―フロー体験と創造性の心理学』   M.チクセントミハイ
     https://www.amazon.co.jp/dp/4790716902/

この本は言わば「伝記的アプローチ」で、これまで大きな発見をしたり産業の姿を変えたりした人々に取材して、その結果をまとめ、考察している。

その考察の軸は、チクセントミハイの「フロー」という概念だろう。こちらも重要な本。

    ⇒『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』   M.チクセントミハイ
     https://www.amazon.co.jp/dp/4790714799/

つまり、何かに集中して没頭することが、創造性を花開かせる。逆に言えば、ギリギリカツカツアワアワの心理状態で創造的になれるはずがない。今流行りの心理的安全性にも関わる。

もちろんその他の、環境や教育、文化、言語……といった諸要素についても考察している。また、最終章は個人の創造性をどう高めて行くかの実際的アドバイスもまとまっている。


▼『創造性はどこからくるか 潜在処理、外的資源、身体性から考える』 及び『越境する認知科学』シリーズ

こちらは言わば客観的アプローチ。傑出した誰かの話、というよりも実験でわかるようなことにフォーカスしていくタイプ。

これまでの研究結果を平易にまとめてくれていて、斯界の全体を見渡すことができる。かつ、その先も提示してくれている。ありがたい。

    ⇒創造性はどこからくるか: 潜在処理,外的資源,身体性から考える (越境する認知科学)   阿部 慶賀
     https://www.amazon.co.jp/dp/432009462X/

この本によれば「ひらめき」の生まれ方の説明は、5つに分かれるという。そして今のところ、学術的にはどれも決定的な説明ではない。……これは個人的体感と同じ。どれもあるし、当てはまらないこともあった、と思える。

    ・ひらめきは連想の先にある(活性拡散アプローチ)
    ・ひらめきは考え尽くそうとした人に訪れる(問題空間アプローチ)
    ・ひらめきは良いきっかけやヒントを得た人に訪れる(機械論的アプローチ)
    ・ひらめきは常識にとらわれない人に訪れる(制約論的アプローチ)
    ・ひらめきは存在しない(標準的問題解決アプローチ)

余談だけど、このシリーズの編集代表の鈴木宏昭先生にはお目にかかって話し込んだことがある。それ以来、飾らぬ人柄のファンになった。一般向けの書籍ではその一端が見えて楽しい。もちろん内容もすばらしい。

        ⇒『教養としての認知科学』   鈴木宏
         https://www.amazon.co.jp/dp/B07JGQ7BNV/
        ⇒『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き (ブルーバックス)』   鈴木宏
         https://www.amazon.co.jp/dp/B08LD8MJFW/ 

    ↓より平易なウェブ記事も。
        https://scienceshift.jp/cognitive-science01/
        https://scienceshift.jp/cognitive-science02/
        https://scienceshift.jp/a-mind-that-seeks-the-cause/
        

▼アーティストなどのスタイル論

仮にスタイル論などと呼んでみた。

起業家やアーティストが、自分がどう創造に取り組んでいるか、そのメソッドや心構えや経験談……等々をまとめた本。つまり、経験則的な方法、というところ。

    ⇒『発想する会社! ― 世界最高のデザイン・ファームIDEOに学ぶイノベーションの技法』   トム・ケリー
     https://www.amazon.co.jp/dp/415208426X/
    ⇒『クリエイティブの授業 STEAL LIKE AN ARTIST "君がつくるべきもの"をつくれるようになるために』オースティン クレオ
     https://www.amazon.co.jp/dp/4788908050/
    ⇒『天才たちの日課』メイソン・カリー
     https://www.amazon.co.jp/dp/B01M70KAK0/
    ⇒『「クリエイティブ」の処方箋』ロッド・ジャドキンス
     https://www.amazon.co.jp/dp/B076P6YCHJ
    
楽しく読めるし、あるいはインスパイアしてくれたり、ケツを叩いてくれたり、「これだ!」と思えたりする。

とは言えいずれも、コツコツと続けることの重要性を語っているようにも思える。


▼アイデア大全、問題解決大全

創造性という概念にとらわれず、その具体的な方法論に着目するというのもひとつの道だと感じる。なにせ掴みどころがないテーマなので。

その白眉が読書猿さんの『アイデア大全』と『問題解決大全』だ。おそらく誰にでも「使える」本であり、その先へ誘ってくれる本でもある。

    ⇒『問題解決大全 』 読書猿
     https://www.amazon.co.jp/dp/B078GNFFYT/
    ⇒『アイデア大全』 読書猿
     https://www.amazon.co.jp/dp/B06XFPYZ8P/


▼問題発見、問題の定義というテーマ

一般的に、問題の定義という課題が創造性という切り口で語られることは少なそうだが、正しい問い、有効な問いを発することも、もちろん創造性の重要なテーマでもある。例えば、

    ⇒『ライト、ついてますか 問題発見の人間学』ドナルド・C・ゴース ジェラルド・M・ワインバーグ
     https://www.amazon.co.jp/dp/B09BDWRCXN/
    ⇒『問いこそが答えだ!~正しく問う力が仕事と人生の視界を開く~』ハル・グレガーセン
     https://www.amazon.co.jp/dp/B088TQM1X6/

……など。

当然だけど、間違った問いに答えを出しても意味がない。逆に、正しい問いを発することも、創造性のひとつの働き。……こうなってくると、入れ子orサーキュラーなテーマになってきて、またよくわからなくはなるけど。

哲学という世界も、おそらく「問い」が極めて重要というか、問いこそ哲学、とまで言えるのではないかと理解している。

さらに言えば、イノベーションという研究分野にも関わる。デザインシンキングとかアート思考みたいな切り口もある。広げ過ぎるとより混沌としてくる:-)

 

 

以上がざっくりとしたメモ。

別の方向に話を広げると、あるいは、禅とか仏教の修行=悟り=ひらめきという課題にも関連しているかもしれない。そんな気もしている。

例えば、法華経の「等覚一転名字妙覚」という言葉。難しくてよくわからないけど、解説によれば、誰もが悟りを目指して進んでいくが、悟りはその歩みの延長線上にあるのではなく、実は歩き始めた時の足下にある、という意味らしい。もちろん法華経を読んだわけではなく、この本で知った。

    ⇒『等伯 上 (文春文庫)』   安部 龍太郎
      https://www.amazon.co.jp/dp/416790442X/

単純に言えば、初心に返れ、実は答えは近くにある、ということだろう。もちろんその先に歩み出すから見つけることができる、という側面もある。追究は無駄ではなく、気付くためのプロセス。……あるいはこれも、コツコツと続けることの重要性を語っているのかもしれない。