Notelets

誰かのために何かを作る日々の断章。試論。仮説。フィールドノーツ。

「趣味は読書」とする場合の注意点 ほか。

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「趣味は読書です」。……という人がうらやましい。

これまで少しは本を読んできたとは思うが、趣味というよりは、仕事や生活上の課題があるから、読まなくてはならないから読む。そういう姿勢で読んできた。

だから『バーナード嬢曰く。』とか『書店員 波山個間子』とか、憧れを持ちながら楽しく読む。

バーナード嬢曰く。: 1 (REXコミックス)   施川 ユウキ
https://www.amazon.co.jp/dp/B00JIFLWM8/

書店員 波山個間子 1巻   黒谷 知也
https://www.amazon.co.jp/dp/B085DMMMSB/

 

『ド嬢』の友人たちのように、図書館で過ごしたい。あるいは波山さんのように、カフェで、好きな本とコーヒーとスイーツの "ゴールデン・トライアングル" を楽しみたい。……などと思う。他にも読書を扱った本は多く、みなさん楽しんでいる。自分も、本があれば幸せ、と言ってみたい。

しかし現実は、必要な情報を探して読み飛ばし、書き込みで本を汚し、ハッタリを効かすために権威の本を手に取る。……そういう、きわめてプラグマティックでつまらない読書生活を送っている:-)


「趣味」欄に「読書」と書くこと

就職活動などで履歴書や自己PRの文章をを書く時。久しくそういうことをしていないので忘れたが、「趣味」欄の内容に困って、「読書」と書いてしまう場合があるかもしれない。だって「ソシャゲ」とか「推し活」とか書きづらいもんね。

その場合の読書は無難な選択だが、もちろんインパクトが足りない。あるいは、本当に読書が趣味でないなら、面接で何か聞かれたときのために、本について何か語れるようにしておかなければならない。

「どんな本がお好きですか?」と聞かれた場合のベストな答えを探る

ここから、いわゆる独断と偏見で、面接で好きな本を聞かれたとき、どう答えるのがいいか探っていこう。

それらしい系

それっぽい本はどんなものだろうか。落合陽一? いいかもしれないが、面接官に理解されないかもしれない。ちょっとめんどくさいと思われるかもしれない。ひろゆきとか堀江貴文も、面白いのだろうが面接にふさわしいとは考えづらい。

では、いっそドラッカー? これはありかもしれない。特に面接官が50代以上の場合。ただし面接官が喜んでしまって、突っ込んだ質問がバンバン飛んでくるかもしれないのでややリスキーか。

稲盛和夫とか松下 幸之助はどうだろうか? きっと、まじめな人なんだと思ってもらえる。これもやはりおじさん面接官には受けがいいだろう。司馬遼太郎、というのも同様。これも突っ込まれる可能性があるので、名言をひとつかふたつ、引用できるようにしておくといいかも。「商売とは、感動を与えることである。」とか。

少し前なら、若い人の間では沢木耕太郎深夜特急』が定番だったのかもしれない。馬力があるやつ、と思われるかもしれないが、容易に "自分探しフワフワ系" に陥る可能性があるのでその点には気を使わないといけない。

SF 未来志向かつ知的なムード

SF、というのはなかなかいいかもしれない。特に、フューチャーをクリエイションするクリエイティヴィティ系の会社には。その場合、間違っても『スターシップ・トゥルーパーズ』などと答えてはいけない。バトルものはダメ。だいいちこれは映画だ(私は大好きだが)。『宇宙の戦士』と答えるならまだマシ。

例えば、アーサー・C・クラークアシモフ。このあたりは無難なはずだ。J・P・ホーガンとかも。良識・良心。

ギブスン、フィリップ・K・ディック、レム、グレッグ・イーガンあたりは……、何かの研究室みたいなところに入りたいならいいかもしれない。建設業ではちょっと違う。

SFがふさわしい企業の場合、今なら、「最近では『三体』です」と答えておけば間違いない。

自己啓発

7つの習慣』とか『チーズはどこへ消えた?』、『仕事は楽しいかね?』、あるいはナポレオン・ヒル?とかは、まあマジメ過ぎると思われるかもしれない。内容がどうとかということではなく、自己啓発系は扱いが難しい。相手もそのスジの人ならいいが、もし宗派がちがうと……。

エンターテインメント系

ミステリ小説はどうだろうか? アガサ・クリスティコナン・ドイルシャーロック・ホームズは知的な人と思われるかもしれない。横溝正史は……ちょっと微妙。おもしろいのはわかるが。宮部みゆきとか、そのあたりの日本のエンターテインメント作家の名を挙げれば、「いい人そう」となるかもしれない。江戸川乱歩? ちょっとアナーキー過ぎやしませんか。

古典の力を利用するのはどうか?

いっそ古典、という手もある。これは間違いない。なにせ誰もが認めるものが古典になっているのだから。しかし古典と言っても何が古典なのか判然としない難しさもある。

聖書はやり過ぎだろう。確かに人間性というものについての根源的な理解がつまっているのかもしれないが、特に20代の就活という場を考えた場合には、ちょっとやり過ぎ感はある。めんどくさいやつ、と思われるかもしれない。50代での転職、ならいいかもしれないけどね。

ではギリシア神話。アカデミックな人、という印象になるか。少し広げて、神話が好きだというのはあるかもしれない。『スターウォーズ』をきっかけにジョゼフ・キャンベルに興味を持って、そこから神話を読むようになった、というのはいいストーリーかもしれない。知的な会社なら。そうでなければ「へぇ……」と感心とも苦笑いともとれる微妙な反応になるのがオチだ。

シェイクスピアとかドストエフスキーとか……欧米の大作家は、いわゆる権威なので間違いない。ディケンズとかメアリ・シェリー、ジョージ・バーナード・ショーとかいろいろ。これらは、相手も「ああ、そうですか、名前は聞いたことあります」……となって話が終わりそうな気もするんで、無難かもしれない。細かく突っ込まれたら困る。

そこまでの古典ではないかもしれないが、『薔薇の名前』や『失われた時を求めて』も捨てがたい。マンガ版や映画版があるはずなので、それぐらいは見ておいた方がいいだろうが。

ビジネス系

いっそ、ガチビジネスな方向に行くのもいい。趣味としての読書とは少し違うかもしれないが。全体として、意識高い。

例えばマイケル・ポーターはどうだろうか。競争戦略について、少し語ってみると感心してもらえるかもしれない。あるいはフィリップ・コトラー。デービッド・アーカー。これらはマーケティング分野のグルなので、間違ってもマーケティングの会社では言ってはいけない。ボロが出る。しかし非マーケティング業の会社なら、「へぇ……」と+10点ぐらいもらえるかもしれない。

ついでに、『Forbes』も定期購読しています、としてもいいかもしれない。いや、日本版じゃなくて本国版。『FAST COMPANY』でもいいかもしれない。もちろん「こいつは英語がいける」と思われて後々ピンチを招くかもしれないので、そこはアット・オウン・リスクで。

あるいは『ハーバード・ビジネスレビュー』とか? 新卒だとちょっとやり過ぎ感はあるが、転職ならいいかもしれない。イバリは効く。ただし「最近読んだ論文は?」となってもよくないので、実際に目を通しておくことをお勧めする。高いけど。

より平易に、『東洋経済』とか『ダイヤモンド』は無難だろうけど、どうしても「就活に合わせて勉強してきた感」が出るかもしれないので要注意。……いやそもそも、趣味の読書じゃないか。しかし両紙の「ブックレビューを参考に、知見を広げています」というのはポイントを稼げるかもしれない。マジメ。

その他あれこれ

マニアックな、その分野のクロウトしか手を出さない本、というのはおしなべて無難かもしれない。いかにもクールでヒップでナウなフィーリングを醸し出せば、「なんかおもしろいやつ」ということになるかもしれない。よく知らないけど『Wired』とかに紹介されている本がいいのかね。面接官は知らないはずだから、「どんな内容の本ですか?」と聞かれたときにもボロが出にくい。

ちょっと変わった、ニッチな分野に特化するのもいいかもしれない。例えば……、そうだな、「発酵」とかはどうだろう。食文化でもあり、人類史でもあり、化学でもあり。マニアックに突っ込んでいく趣味。そういう性質を持った職種なら、面接官にいいアピールになるかもしれない。研究職とか専門職とか。もちろん大学で研究したことなどでもいい。ただ、ニッチ過ぎても話が広がらないし、歴史とか王道過ぎてもインパクトに欠ける。歴史なら、「東欧の歴史に興味があって……」などと答えるとちょうどいいかもしれない。「どのへんが面白いんですか?」となるので、もちろん答えは用意しておくべきだが。

「モモ」とか「星の王子さま」、「ゲド戦記」などの海外のジュブナイルというのかヤングアダルトというのか、そのあたりの高名な物語も、場合によってはいいかもしれない。それを大人になっても好きで読んでいるというのは、なんだか人として高級、と思える(というのは読書人に憧れている筆者だけかもしれないが)。おそらく英語をそこそこやった大学生なら原著も読めるはず。そうなったらかなりポイントが高い。

ラノベ、と言われるような棚もあった。もちろん優れたものも多く、何より楽しい(のだろう)。……しかし、どこか、就職面接の場にふさわしくない感じがしてしまうのは、時代遅れの感覚だろうか。もちろん本当に好きなら貫けばいい。面接官も好きかもしれない。その場合、少し、評論というか、文学研究の要素を持ち込むとウケるのではないか。例えば野崎まどと、アーサー・C・クラークなどの大家のつながりを論じるなどして。

西村賢太とか、ちょっと昔なら開高健とか、そのあたりの、人々の体臭がしてくるような文学は……どちらかと言えば、個人的には職場というより酒場で出会いたい。

ああ、忘れていた、村上春樹があった。王道ですね。

結論

こうして考えてみると、一番無難なのはアーサー・C・クラークアイザック・アシモフなど、欧米の良識あるSFが良さそうだ。知的な感じもあるし、かと言って偏った・扱いの難しいヤツとも思われづらい。村上春樹ほどメジャーではないだろうから、少しエッジも立つ。

もし面接官が「?」という顔をしたら、『2001年』や、「ロボット三原則」のことを持ち出せばいい。このあたりのキーワードなら、きっと誰もが聞いたことがあるはずで、少しは話が広がるだろう。

もしあなたがあまり本を読まないタイプなら、こんな本↓もあるので目を通しておくのもいいかもしれない。

読んでいない本について堂々と語る方法 (ちくま学芸文庫)   ピエール バイヤール
https://www.amazon.co.jp/dp/B085DMMMSB/

 

ただし問題があって、人をくったタイトルにも関わらずというかなんというか、この本は明らかに読書人向けに書かれていることだ。よってこの本も、読まずに済ませる本になるのかもしれない。ループしてきたけど。

(なお、当然ながら上記の本の内容、またその善し悪しは一切問題にしていない。どれも誰かの役立つものだろうと思う)